Masuk『雪の精霊 ~命のきらめき~』の続編 前作を読んでいないと、分からない点が多いかもしれません。 雪の精霊、ゆきの氷は溶けて、水の精霊へ。 ハッピーエンドのその後も、人生は続いていく。 命を燃やし続けるゆきの輝きはさらにいや増し、その光はどこまでも広がって、やがて世界を照らしていく。 その歌に救われるもの、ダンスを見て元気をもらうもの。憧れて同じ世界を目指すもの。 世界中に影響を与え続けるその姿はまさに精霊。 その終着点に待つものは。
Lihat lebih banyakあれからさらに一年が過ぎた。 残業続きでもうそろそろ解放してほしいんだけど、現世というブラック企業は簡単には逃がしてくれないものらしい。 最近は昔のことを思い出しながらボーっとすることが増えてきたと思う。 時間が突然飛んでしまうような感覚。 そういえばこの感覚って以前にも体験したことがあるような。 今日も一日が終わり、やや疲れた体をベッドに横たえて物思いにふける。「あぁ、そっか。若い頃、一度眠りについた時と同じ感覚だ」 忘れることが出来ないという全記憶障害で脳の容量が限界を迎えた時、わたしは一度倒れた。 記憶の整理に挑んでいたことと、たぶんもう一度精霊さんが手を貸してくれたことによってもう一度目を覚ますことが出来たけど、次はそういうことじゃないだろう。 今度はわたしの脳ではなく、寿命そのものが限界に来ていると思うから。 今の世の中、もっと長生きする人はたくさんいるけど、わたしは生きることに執着しているわけではない。自分が為すべきことを済ませた今、もういつ旅立ったとしても悔いはない。 ひよりとの間に男のが産まれ、他の三人との間にはそれぞれ女の子を授かった。みんなそれぞれが家庭を持ち、今では孫たちすらも成人するほどに大きくなった。 命をつなぐという生命としての役割は果たした。 歌手としても、懐メロと呼ばれるようにはなってしまったけど、今の若い子にも受け入れてもらえるような曲をたくさん残すことが出来たし、世代を超えた名曲ということでいまだにテレビなどでも流れることがある。「いろんな人に元気を届けること、できたかな」 芸能界に復帰したことによってたくさんのファンレターが贈られるようになり、その中には『元気をもらった』『小さな幸せの大切さを思い出した』などといった嬉しい言葉をもらった。歌手としてこれ以上ないほどの賛辞だと思う。「この老人ホームも、もう大丈夫だよね」 一年も経てばわたしが教えた料理のレシピもすっかり定着したし、いろいろ考えたレクリエーションも今では何も言わなくてもそれぞれが楽しんでくれている。わたしがいなくなっても暗い雰囲
「結局子供四人に恵まれて、幸せな家庭に恵まれたよなぁ」 年月が過ぎ、為すべきことを為したと胸を張って言えるようになった。 治安の関係でアフリカにだけは行くことが出来なかったけど、中東や東南アジア、南米でもコンサートを開くことが出来たし、チャンネル登録も世界中の人からしてもらえることが出来た。「でも残念ながらギネス記録を塗り替えることはできなかったんだよねぇ」 三億人を大きく超えることはできたものの、当時の世界記録四億三千万という数字には及ばなかった。 それでもわたしが理想として追い求めた、世界中の人々に歌声を届けるということは達成できたし、たくさんの人を元気にする楽曲を作り続けることはできたと思う。 今はもう以前のように体が動かなくなって、声もほとんど出なくなってしまったけど、鮮明に残る記憶をたどれば十分幸せな人生を歩んできた。 決して平坦な道ではなかったけれど、たくさんの人々の助力を得られて突き進んでくることが出来た人生。「愛する人と共に暮らして、家庭だけでなく仕事の面でも支えてもらって、わたしは本当に恵まれた人間だったと思うよ」 ベッドの上で声に出す。 だけど答えてくれる人はもう誰もいない。「わたし一人だけが残っちゃったな」 わたしが愛し、愛された四人は一足先に天国へと旅立った。 あれから半世紀以上の時が経ち、わたしの周囲からいろんな人が去っていった。それを見送り続けるのも、わたしに課された『使命』なんだろう。 生き物はすべからく、産まれた瞬間から死に向かって歩きだすもの。 わたしが関わった全ての人に最後まで、幸せを届けて見守り続けることは『水の精霊』として当然のことだろう。「それにしても……残業長くない?」 子供たちを自分の家庭を持って壮年になり、最後まで寄り添い続けてくれたひよりも五年前に旅立った。 わたしの役割はとっくに終わったはずなのに、わたしはいつまでこの世に取り残されているのだろう。「みんなに……会いたいなぁ」
「やっぱりアメリカのノリは日本とは違うね。会場全体の温度がいつもより高かったような気がするよ」 前回渡米したときのセンセーショナルなデモンストレーションはしっかりとアメリカ国民の記憶に残っていたようで、初コンサートだというのにチケットは早々に完売していたそうだ。プレミアチケットとして高値で転売もされていたというのだから、注目度は相当高かったのだろう。 告知ポスターにもわたしが銃弾を弾いた時の、発射前に構えを取っている姿が印刷されており、エンタメ好きのアメリカンにとっては興味をそそられるものだったのだろう。「事前のインパクトと今日という本番での実力が完全にマッチしたが故の熱狂でしょうね。ゆきさんなら当然です」 なぜか一番鼻を高くしているのは五代さん。 この日のために忙しく働いて力を注いでくれただけに、大成功に終わったのが誰よりも嬉しいんだと思う。今にも小躍りしそうなほどに機嫌がいい。 それだけわたしのことを真剣にサポートしてくれているということでもあり、ありがたいことなんだけどね。「これで愛人一号としての面目躍如です!」 まだ言ってんのか、そのネタ。 もうわたしも一児の父だというのに、いつまでその話題を引っ張るんだろう。行き遅れるよ?「わたしの目標はゆきさんをこのまま世界的大スターにして、その優秀な遺伝子を体外受精させてもらうことですから!」 とんでもねーこと考えてやがった。「わたしの遺伝子は量産型じゃないです!」 まったく、我が子の事を思うならちゃんとした父親は必要でしょうに。「いいんじゃねーか? 遺伝子くらい」「浮気にはなりませんね」「社会貢献」「悠樹さんの子なら可愛い子が産まれるのは間違いないもんね。うちの子もめっちゃ可愛いし」 うちの嫁たちはなんでこんなに寛容なんだ? わたしの子種がばらまかれることに抵抗感はないのだろうか。 ひよりはしれっと親バカ発揮してるし。「正妻から許可もいただきましたし、子種提供お待ちしていますね」 おいおい、本気か。
「おめーらがうかうかしてる間にゆきの愛人は六号まで埋まっちまったぞ」 より姉にチクられた。「どういうことか」「説明してもらえる?」 聞くや否や詰め寄ってくる文香と穂香。 久しぶりに見たよ阿吽の呼吸。さすがはわたしの金剛力士様。 ちょちょ。表情が怖いよ。本当に仁王様になってるから。「なんかね、わたしが何も関与しないままにみんなが勝手に愛人を名乗っていって、気が付いたらそんな数字になってたの」 何を言ってるのかよく分からないけど、本当にそうなんだから他に言いようがない。「それですでに六人も」「さすがというかなんというか」 感心されても困ります。「それじゃ、七号は元副会長に譲るか」「穂香は八号でいいの?」「ラッキーセブンと末広がりで縁起がいいね。あははは」 もうこうなったら笑うしかない。 土砂災害で濁流にのみ込まれてしまったような気分だけど。「全員を孕ませたらサッカーチームが作れるな」 チクった本人が何を呑気なこと言ってるんだ。一人補欠じゃねーか。「え、愛人って子供を産む権利もついてくるの?」「その権利は是非行使したいね」 そんなわけねーだろ。 嫁だけでも四人いるのにその上愛人まで孕ませるとかどんなクズやろーだよ。「二人ずつ作れば対戦もできますね」 かの姉は何言ってんの?「主審と副審もつく」 あか姉まで。確かに人数的にはちょうど合うけどさ。「絶倫だとは思っていたけど、そこまでとはね」 いや、干からびるわ。 ひよりはなぜ昔からわたしを絶倫と決めつけているんだろう。「バカな事ばかり言ってると今度のコラボに二人も参加させるよ」 かつてわたしと三人でダンスを披露したこともある二人。 息も合ってて上出来だったんだし、もう一度あの感覚を味わうのも悪くない。いつも一人だからね。「もうあんな風に体が動か