FAZER LOGIN『雪の精霊 ~命のきらめき~』の続編 前作を読んでいないと、分からない点が多いかもしれません。 雪の精霊、ゆきの氷は溶けて、水の精霊へ。 ハッピーエンドのその後も、人生は続いていく。 命を燃やし続けるゆきの輝きはさらにいや増し、その光はどこまでも広がって、やがて世界を照らしていく。 その歌に救われるもの、ダンスを見て元気をもらうもの。憧れて同じ世界を目指すもの。 世界中に影響を与え続けるその姿はまさに精霊。 その終着点に待つものは。
Ver mais「みんな! 今日は来てくれてどうもありがとう!」
全てのプログラムが終了し、アンコールにも二回応えた。
三日間にわたって行われたけれど、毎日満員御礼で会場の熱気も常に最高潮。間違いなく成功と言っていい内容だった。 初めてのコンサートはこれで正真正銘終了だ。五代さんと決めたのは、このままツアーに入り、日本縦断コンサートを決行すること。
全国にいるわたしを支え続けてくれたリスナーさん、いや、これからはファンと呼んだほうがいいのかもしれない人たちに、わたしの元気な姿を直接見てもらいたいから。「今まではネット越しでしか会えることがなかったけど、こうやってみんなと直接会って、一緒に空気を共感出来て本当に楽しかったよ! だけどこれで最後じゃないから! この声が出る限り、わたしは唄い続けるし、またみんなの前で唄いたい! だから! わたしをいつまでも支えてください!」
会場の隅々にまで響き渡るわたしの声を、かき消すくらいの勢いで帰ってくる歓声。みんなも次を待ってくれているという手ごたえを感じる。
「今度はもっと広い会場、ドームで会おう!」
今回は1万人規模だけど、ドームともなれば5万人だ。人数が五倍になれば熱気は五倍どころかもっと加熱するだろう。
ステージを去るわたしを追いかける観衆の声はいつまでも大地を揺るがすかのごとく響き続け、わたしは一人楽屋で涙を流した。
「相変わらず仲良いですね」 グレーのタイトスーツにサングラスでばっちり決めた五代さんが、口元を緩ませてそう言って来た。「見てたんですか?」「えぇ。元気そうに出てくるゆきさんの後ろで、笑顔ながらも心配そうにしている四人の健気な姿に心を打たれました」 あの一瞬でそんなところまで見てるとは。 出来る女は恐ろしい。「そりゃ一か月半も家を空けるなんて入院してた時以来ですから。寂しく思うのもしかたないんじゃないですか?」「愛されてますねぇ」 うっさい。ニヤニヤすんな。「それにしても車で来るとは思いませんでしたよ。北海道まで運転するんですか?」「まさか。さすがに飛行機を予約してありますよ。これは空港で乗り捨てられるレンタカーです」 なるほど。北海道と言えど遠いし広いし、さすがに車では行けないか。北海道でっかいどー。 考えてみたら飛行機に乗るのなんてアメリカから帰った時以来だな。「それにしても、ハンドルを握る姿が異様に様になってますね」「かっこいいでしょ」 わたしよりも男前なのがちょっと癪に障るけど、確かによく似合っている。「普段から琴音ちゃんの送迎とかもしてるんですか?」「そんなことありませんよ。琴音には琴音のマネージャーがいますから」 そういえばこの人プロデューサーだった。「昔はわたしもマネージャーをしてましたけどね。ただプロデューサーに昇格してからマネジメントからは遠ざかっていました」 マネージャーとして現場での経験を通じて制作プロセスの理解を深め、クライアントやスタッフと太いコネクションを築いたり、担当アイドルの売り込みの際に企画や演出の才能を発揮していないとなかなかプロデューサーへと昇格することはないらしい。 五代さんがいくつなのかは知らないけれど、この若さで昇格してるということはやはり見た目通りに相当出来る人なんだろう。「昔は、ってことは今他に誰も担当してないんですか?」「してませんよ。わたしはゆきさん一筋ですから」 急に一筋とか言うんじゃないよ。 照れるでしょうが。「だけどプロデューサー業務と両立させるのも大変そうですね」「そこはわたしの趣味の範疇ですから。ゆきさんを上層部に売り込む際、わたしにマネージャーをさせないと紹介しないって脅しましたから」 愉快そうに言ってるけど、上層部を脅迫するなんて相当な胆力
ハッピーエンドを迎えたからと言って、人生という名の物語が終わることはない。 * * * わたし史上初のコンサート。 アーティスト憧れの聖地でデビューを飾ることが出来たけど、ツアーはそこで終わりじゃない。 東京の次は北海道。次に名古屋、大阪。最後は福岡で締める日本縦断コンサートツアーはこれからだ。「相変わらず慌ただしいやつだな。リハビリが済んだと思ったらもう家を空けるのかよ」「そんなこと言わないでよ。寂しい想いをさせるのは悪いと思ってるからさ」 北海道に立つ前日の朝食の席。より姉が拗ねたような顔で不満を漏らしたので、思わず苦笑いをしてしまった。「バ、バカ! 寂しいとかそんなんじゃねーよ! ただいくらリハビリが終わったと言っても少し心配なだけだ!」 ムキになって否定するのはいいけれど、そんな真っ赤な顔をしてたら意味がないよ。「ぷぷ。より姉寂しいんだ~」 案の定ひよりに突っ込まれてるし。「違うって言ってんだろ!」「ムキになるのが答え」 あか姉にまで。「なんだとぉ! おまえら少しは長女を敬いやがれ!」「長女ですけど、ゆきちゃんの正妻という立場では同列ですよ」 かの姉がトドメをさす。「……」 より姉、撃沈。 なんでもいいけど、その正妻という呼称はやめて欲しいな。「みんないつからわたしのお嫁さんになったのさ」「何言ってんだ。あれだけ固く将来を誓い合ったんだから、そんなのもう事実婚と変わらんだろ」 事実婚という響きがこれまた……。「四人も正妻がいるとか、それだけ聞いたらいかにもクズっぽいし。それに全員と婚姻届けを出せるわけじゃないでしょ」 みんなと添い遂げることに関して異議があるわけではない。 だけど実際に結婚するわけではない以上、正妻というのは少し違う気もする。「なんだ、そんなことにこだわってるの? あんなの所詮紙切れじゃん」「そうだな。形なんてどうでもいいんだよ。要は中身があればそれでいい。元々日本のルールからは逸脱してるんだから、今更そこだけルール通りにする必要もねーだろ」 確かに。始まりからして特異なんだから、型にはまる必要はないのかも。「それで、ウェディングドレスはいつ着せてくれるんですか?」 形はどうでもいいんじゃなかったの?「より姉、急がないと」「どういう意味だ、茜」 より姉も二十七だもんなぁ。
「みんな! 今日は来てくれてどうもありがとう!」 全てのプログラムが終了し、アンコールにも二回応えた。 三日間にわたって行われたけれど、毎日満員御礼で会場の熱気も常に最高潮。間違いなく成功と言っていい内容だった。 初めてのコンサートはこれで正真正銘終了だ。 五代さんと決めたのは、このままツアーに入り、日本縦断コンサートを決行すること。 全国にいるわたしを支え続けてくれたリスナーさん、いや、これからはファンと呼んだほうがいいのかもしれない人たちに、わたしの元気な姿を直接見てもらいたいから。「今まではネット越しでしか会えることがなかったけど、こうやってみんなと直接会って、一緒に空気を共感出来て本当に楽しかったよ! だけどこれで最後じゃないから! この声が出る限り、わたしは唄い続けるし、またみんなの前で唄いたい! だから! わたしをいつまでも支えてください!」 会場の隅々にまで響き渡るわたしの声を、かき消すくらいの勢いで帰ってくる歓声。みんなも次を待ってくれているという手ごたえを感じる。「今度はもっと広い会場、ドームで会おう!」 今回は1万人規模だけど、ドームともなれば5万人だ。人数が五倍になれば熱気は五倍どころかもっと加熱するだろう。 ステージを去るわたしを追いかける観衆の声はいつまでも大地を揺るがすかのごとく響き続け、わたしは一人楽屋で涙を流した。